とある元SEの思考を探る

ひょんなことからとあるICT企業ではたらくことになったなんちゃって元SEがしたためるブログ。主に、政治・経済・社会問題・日常の出来事について発信していきます。お読みいただけたら、感動にむせび泣くほど嬉しいです。よろしくお願いします。


女性の社会進出で経済は成長しない?!

第二次安倍政権が誕生しはや2年と2か月がたちました。成長戦略として三本の矢を放ち、経済は民主党政権よりは確実に良くなったのは間違いないと思います。三本の矢の一本目、大胆な金融緩和によるデフレ脱却は、おおむね正しい方向です。日銀の総裁に黒田氏を起用したのも正しい方向でしょう。欲を言えば、また白川総裁のように超円高、デフレを引き起こすような総裁に戻らないように日銀法を改正し、政府と協調して物価上昇目標を定め、日銀にはその物価上昇率を目指して金融政策を行うようにすべきですが、今の安倍総理ではここまで大胆なことはできないでしょう。

二本目の矢が財政出動東日本大震災の復興も含めて、景気を回復するためにどんどんと公共事業を行う。これは、イマイチでした。急な土木事業の増加で人手はたりず、公共事業の案件に入札すらないことも。加えて、2014年の消費増税。これは、国民に幅広く負担をしておきながら、自民党献金をくれる土建業者に税金で仕事を与えるという、一部の企業や団体に利益を誘導する政治の典型例です。

そして三本目の矢の成長戦略。これはほとんど何もやっていないに等しい。一応、官邸のホームページに行くと色々と書かれていますが、口だけ。実態は伴っていません。その第三の矢である成長戦略の一つである「女性の社会進出」。今回はこれに注目しようと思います。

ポイントは、女性の社会進出によって経済は成長するか?ということです。結論から言うと、なかなか厳しいということになります。なぜか。説明していきたいと思います。

経済力を表す指標として国民総生産、いわゆるGDPというものがあります。そして、物価変動を考慮しない名目GDPと物価変動を考慮して補正した実質GDPの二つがあります。そして、名目GDPというのはすなわち、国民が生み出した利益の総和ですから、ほぼほぼ国民の総所得に等しい。(厳密には国民総所得(GNI)というのがありますが、GDP≒GNIと考えて良いです)経済成長といえば、すなわち、GDPの成長率が大きくなることを言います。そして、当たり前ですが、働く人には男性も女性もいるので、

  名目GDP=男性の総所得+女性の総所得

という式が成り立ちます。すなわち、名目GDPが一定のとき、女性の総所得が増えれば、男性の総所得は減少し、男性の総所得が増えれば、女性の総所得は減少します。当たり前ですね。

昭和の頃をイメージすると分かりやすいですが、当時、働き手は主に男性でした。そこに女性の社会進出ということで、女性も男性と同じように働き始めます。そうすると、女性の総所得が増えますので、男性がもらっていた所得が減っていきます。もちろん、名目GDPそのものも変わっていきますし、長期的な傾向では、増加していきますから、女性の総所得も男性の総所得も増えることもあるでしょう。ただ、その場合でも、女性勤労者の増加に伴って、名目GDPに対する男性の総所得の割合は減っていき、名目GDPに対する女性の総所得の割合は増えていきます。

  男性の総所得/名目GDP ↓  女性の総所得/名目GDP ↑

そうした中で、男性が主な働き手だった場合に比べ、女性の勤労者が増加することによって、より経済が成長するということになるとはどういうことかを考えます。名目経済成長率(名目GDPの増加率)と実質経済成長率(実質GDPの増加率)には次のような関係があります。

 名目成長率=実質成長率+物価上昇率

ここで、物価上昇率は長期的には中央銀行の金融政策によって決定されます。(もちろん、短期的には消費増税などで物価上昇率が鈍化するなどの財政政策的要因もあります)すなわち、名目成長率を上昇させるには当然のことながら実質成長率を上昇させなければいけません。

実質成長率とは言いかえれば、いかに効率よく利益を上げられるかということですので、生産性が上昇すれば、実質成長率も増加することになります。すなわち、女性勤労者が増えることで、生産性が向上すればいいわけです。

つまり、生産性の高い女性勤労者が、生産性の低い男性勤労者にとってかわれば、“女性の社会進出”で経済成長することになります。

しかし、もっと言うと、男性と女性の生産性がどちらも同じであれば、女性勤労者が増えたところで経済成長率は変わりません。男性と女性で能力の違いが無ければ、“女性が社会進出”したところで経済成長は男性とは変わりません。すなわち、安倍政権が掲げる成長戦略の一つである“女性の社会進出”とは、まったく意味のないものになります。

しかし、“女性の社会進出”という耳触りのいいことに反対することができる政治家はなかなかいません。

ただ、上に述べた式なんかはマクロ経済学の初歩の初歩であるので、“女性の社会進出”は経済成長に繋がらないと主張する人もやはりいるのではないかと調べてみたら、なんと学習院大学の鈴木亘教授がおなじような主張をしていました。

 

アベノミクスの「女性の活躍で経済成長」を真に受けてはいけない(上) --- 鈴木 亘 : アゴラ

アベノミクスの「女性の活躍で経済成長」を真に受けてはいけない(下) --- 鈴木 亘 : アゴラ 

 

鈴木先生といえば、社会保障の分野では著名な先生です。心強い!

今回はここまでですが、この問題は本当に根の深い問題です。個人的には安倍政権の主張する“女性の社会進出”に対して女性がもっと怒らないといけないのではないかと思います。