とある元SEの思考を探る

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水素社会は絶対こない

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トヨタが水素自動車MIRAIを発表して半年以上経ちました。納車は今年の春頃からというので、すでに町中で走っているのかもしれません。

水素自動車の仕組みは簡単で、水素と空気中にある酸素から燃料電池で発電し、あとは電気自動車と同じ仕組みで走ると言うもの。言ってみれば電気自動車がバッテリーによって電気を供給しているのが、水素自動車では水素による発電に置き換わったわけですね。

水素自動車ができたことで、政府も水素社会の実現に向けて補助金もたっぷりです。MIRAIでは、本体価格700万円強。それに購入補助金が202万円があって、実質購入価格が520万円ほどだそうです(参照)。

それでは、日本が将来、水素自動車が町中のいたるところで見られ、家庭の発電も水素、原子力発電もなくなって水素発電・・・そんな水素社会が到来するのでしょうか。

ここで私は断言します。そんな水素社会は絶対にこないと。

みなさんはイメージできるでしょうか?水素を供給するインフラが都市ガスのようにはりめぐらされ、地方に行っても水素ステーションで水素自動車に燃料として供給される・・。そんな社会をイメージできますか?

私は、無理だと考えています。


まずは、水素製造の観点から述べます。

まず、声を大にして言いたいのは、今使われている水素は、決してエコな水素ではないと言うことです。
水素は燃焼して電気を取り出しても水しか出さない究極のエコなエネルギーと言われています。
しかし、これは、現在の水素製造方法では全くの嘘です。たとえば、現在エコキュートエネファームといった家庭用燃料電池で供給されている水素は、主に天然ガスから作られています。水蒸気改質という方法です。

(水蒸気改質)
CH4 + 2H2O = 4H2 + CO2
CH4 + H2O = 3H2 + CO
(COシフト)
H2O + CO = H2 + CO2

見てわかるように、原料はメタン(天然ガスの主成分)。そして副産物として地球温暖化の原因物質の一つである二酸化炭素。つまり、現在の水素製造法は、決してエコではないわけです。

もちろん、水素は、製鉄所で製鉄の過程で副産物として作られますし、現状では比較的余っている気体ではあります。しかし、石油や天然ガスといったベースとなるエネルギーとして使うにはあまりにも微力です。やはり、工業的に持続可能な形で(化石燃料を使わない形で)水素を製造する必要があると言えます。

ただ、製造の観点からは、近年、二酸化炭素を排出せず、化石燃料を使わない形で水素を製造する方法が出てきました。これに関しては、後ほど述べます。

 

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http://chem.chu.jp/topic/perio.html


次に、インフラの観点から水素の普及が困難なことについて述べます。

水素というのは、周期表でもわかるように、もっとも軽くてもっとも小さな気体です。これがなにを意味するかというと、取り扱いが難しいと言うこと。たとえば天然ガスパイプラインには鋼が使われますが、水素はこの鋼を脆くする性質があります。結晶粒界や応力の集中する部分に水素がたまり、鋼の強度を低下させます。

水素脆化の問題は、古くから研究されていますが、未だに十分な解決策がわかっていない課題です。水素のパイプラインを張り巡らすためには、この問題を解決しなければなりません。

また、結局水素をそのまま使うのであれば、新たに水素を供給するためのインフラを構築しなければなりませんが、これは多大なコストがかかってしまいます。水素を製造するのにもコストがかかる上、インフラにもコストがかかってしまっては、とても普及する代物ではないことがわかるでしょう。

以上のような理由から、水素がエネルギーキャリアとして、石油や天然ガスのように使われることはほぼ無いと言って良いでしょう。


では、今後、化石資源に頼らない持続可能なエネルギー社会を実現していくために、登場人物として水素がまったく出てこないかというと、そうではありません。持続可能な形で水素を製造することは、やはり重要な要素です。

次の記事では、私が思い描く、次の世代の持続可能なエネルギー社会について述べたいと思います。

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